小さなわがままを聞いて、自分を満たしてあげよう・長田杏奈さん<前編>

小さなわがままを聞いて、自分を満たしてあげよう・長田杏奈さん<前編>

2022.03.25

第63回目は、美容ライターとして美容誌を中心に活躍中の長田杏奈さん。美容をメインに、インタビューやフェムケアなど幅広く執筆する傍ら、フェミニズムやジェンダーなどに関する発信も行う長田さん。2019年に出版された著書『美容は自尊心の筋トレ』は、凝り固まった美容の対する思い込みを手放すきっかけとなる1冊でした。そんな長田さんに、自分を大切にすること、美容の楽しさ、日々がちょっと良くなるヒントを教えていただきます。

妊娠を機に、フリーランスの美容ライターに

ー 長田さんが美容ライターになったきっかけについて教えてください。

大学を卒業して、広告営業などを経て、週刊誌の編集に携わって5年。徹夜につぐ徹夜で、ハードな日々を送っていたのですが、妊娠を機にライフスタイルを変えたくて、フリーランスになりました。週刊誌のときは、いろいろなジャンルを担当していましたが美容1本に絞ってやっていこうと、美容ライターに。母が美容部員だったこともあり、幼少期から化粧品に囲まれていて、インストールされている知識や触れてきたプロダクトも多いので、自然と好きになりました。いろいろなジャンルを経験したけど、あまり難しく考えずに無理せず息を吸うようにできるのが、美容ライターでした。

ー 美容ライターとして活躍する傍ら、2019年に出版した著書『美容は自尊心の筋トレ』も、とても反響があったのではないでしょうか。

当時はまだモテや女子力という言葉がよく使われていましたが、「美容=モテ」と限定されることに違和感があって。モテのために美容をするのが悪いといいたいのではなくて、いろいろな流派があるなかの1つとして、私は「自分を大切にするための美容」もあるということを伝えたかったんです。コロナ禍で家にいる時間が増えて、自分を見直す時間、自分の暮らしをみつめる時間に、“自分を大切にする”という言葉が馴染む時期だったのかなと思います。2022年、2023年にコロナが落ち着いたら、もう少しみんなの意識も外側に開いていくんじゃないかなと思っています。

“自分らしさ”は、心地いい自分でいること

ー ちょうど、“自分らしさ”や“自分を大切にする”といったようなワードを目にすることが増えましたよね。改めて自分らしさってなんだろうと考えると、なかなか難しいとも思いました。

雑誌のタイトルや見出しでも、自分コンシャスな表現が増えましたよね。自分らしさをみつけるというのも、“自分だけの特別な何か”を考えるとハードルが高いけど、まずは自分にすり込まれた“決めつけ”みたいなものを、ひとつずつ剥がしていくことではないかと思います。

例えば、母親だったらこうするべき、学生だったらこうするべき、社会人ならこうあるべきとか、それぞれに矛盾した「べき」と「らしさ」といった規範が個人にこびりついていると思うんです。それをなるべくひとつずつ疑ってみて、誰かがどこで決めたかわからない「こうすべき」像に自分を合わせるのではなく、意識して外すようにしてみると、どんな自分でいることが心地いいのかということが、自然と立ち現れてくるのではないかと思うんです。

ー それは、自分を大切にすることにも繋がりますね。ドゥーオーガニックは、どんな時も受け止めてくれる安心感、戻りたくなるブランドを目指しています。長田さんにとって、戻りたくなる場所やもの、ことはありますか?

いまは愛犬コッペに夢中です。昨年6月に16年一緒にいた愛犬が他界してしまって、本当に悲しくてどうしようと思っていたのですが、6歳の元繁殖犬のシェットランドシープドッグを家族に迎えました。帰宅して、犬に「ただいま」って言って、モフってしたらいっきにオフになります。それがないと無理です(笑)。犬にタッチすると、家に戻ってきたって感じます。

あと美容は、自分に立ち返ったり、自分を表現したり、自分を大切にするための生活習慣の1つなのかなと思っています。スキンケアの時間はまさに、マインドフルネス。“今“に集中するという定義にも当てはまる気がしていて。香りや感触、そういう感覚の世界に集中して没入していくという行動が、生活習慣の中に組み込まれていくと、自分に戻るスイッチになります。よく料理をしていると日頃のモヤモヤしたこともスッキリするという人もいますよね。それと同じ。私は、スキンケアの時間が、癒しやリフレッシュの時間になっています。

ー メイクはいかがですか?

同じ美容でも、メイクはもう少しアップリフトされる感じです。自分の感じる旬の空気に、自分を馴染ませていくみたいなイメージで。洋服や着物も、季節ごとの色柄を取り入れて、自然の大きなリズムにちょっと先回りして合わせるみたいなことって、すごくいいですよね。それと一緒で、なんとなく時代の“気分”がコスメに反映されるので、そこに同期して、身の丈でちょっと表現していくというのが楽しいんです。メイクをして、すごい絶世の美女になれるわけではなくても、なんとなく自分がいいなと思う質感や色のものを塗っていて、「自分はこれがいい、イケてる」って思えると、気分が良いですよね。

小さなわがままを聞いて、自分を満たしてあげよう

ー 誰のためでもなく、自分の気分をちょっとよくしてくれるメイクっていいですね。

そうなんです。お腹が減った時にご飯を食べさせてあげるとか、そういう自分の中から沸き起こってくる小さな“気分”みたいなものに、よしじゃあそれやってみようかって、自分のノリに合わせてあげるっていうのも、気軽にできる自分を大切にする行為だと思います。

先日、なんだか「冷たいピンクが塗りたい!」と思って塗ったんです。昨日は青い服着ていて、一緒にいた人からは、「ネイルも青にしたらいいんじゃない?」「ナチュラルな色の方がいいんじゃない?」と言われたけど、「いや、私は冷たいピンクがいい!」って。だって、ここに青が塗られていたら、人はいいと思うかもしれないけど、自分は落ち着かないと思う。でも今こうやって話しながら手元を見て、「あ、冷たいピンクが塗ってある」って思うだけで私はすごく嬉しいです。爪はとても小さいパーツではあるけど、ここだけは自分のリクエストを聞いて、誰にも譲ったり合わせたりしていない。私の小さいわがままを聞いてあげたんです。

ー 小さいわがままなら、誰でもできそうですね。

洋服もそう。普段は、紺、白、ブラウンみたいな真面目な色が好きなんですけど、今日はちょっと元気になりたくて赤を選びました。「なんか明るい色を着たいな」っていうときに、着せてあげる。逆に、明るい色がどんなに流行っていても、私は黒が落ち着くと思えば、その気分を優先したい。自分を包むものが自分にしっくりくるとか、それによって自分の不足感みたいなものが少しでも満たされるとか、そういう小さなことが日々をちょっと良くしてくれますよね。

ー 人の目や意見が気になって、無意識に自分の欲求にふたをしている人も多いかもしれませんね。そんな人は、小さいわがままを聞いてあげるのは、自分を大切にする練習にもなりそうです。

そうですよね。仕事でも日常生活でも同じです。自分を大切にすると、生産性が下がるかもしれないし、人の期待に応える頻度も少なくなるかもしれない、活躍も減るかもしれないけど、そういう活躍とか成長とか、期待に応えるとかいう前に、「今は疲れているんです」という声を、「冷たいピンクが塗りたい!」というのと同じ感覚で、ちゃんと聴いてあげて、立ち止まるというのは、大事かもしれません。人の期待や役割とかに答えて、自分をすり減らして限界がくる手前で、ちゃんと休んであげないと。

動物や赤ちゃんは、「私は生きていていいのかな」「活躍しなきゃ」とか思ってない分自由だし、何をしていても、ただただかわいくて癒しの存在。その “求めすぎない”、“いるだけで癒される”みたいな眼差しを、もっと自分に向ければいいと思うんです。みんな自分には厳しい。ムチ打てば文句言わずにやっちゃうから。あれもしなきゃこれもしなきゃって思う前に、息をしてご飯を食べて、寝ているだけで、OKっていう前提がないと苦しいです。

ー 後半では、長田さんが化粧品を選ぶときに意識していること、長田さんが思う美しさや年齢を重ねることなどについて、伺います。

photos by yoshimi
   edit&text by Hitomi Takano

長田杏奈さん

長田杏奈さん
(おさだ・あんな)
大学卒業後、ネット系企業の営業や週刊誌の編集を経て、フリーランスの美容ライターに。「美容は自尊心の筋トレ」をモットーに、女性誌やwebメディア等で多くの記事を執筆中。著書に『美容は自尊心の筋トレ 』(Pヴァイン)