女性が身体について考えるきっかけをつくりたい・石井リナさん<前編>

女性が身体について考えるきっかけをつくりたい・石井リナさん<前編>

2021.12.24

第61回目は、フェムテックブランド〈Nagi〉のCEOを務める石井リナさんにお話を伺います。昨年デビューし、またたく間に注目を浴び人気になった〈Nagi〉の生理用吸水ショーツ。代表の石井リナさんに、起業したきっかけやブランドコンセプトに込めた想い、製品のこだわりについてお話しいただきました。時代の変化や女性の気持ちをキャッチし、ユーザーの声に寄り添いながらものづくりをする〈Nagi〉。強い意志を持ちながらも、愛が溢れる石井さんの人柄もとても魅力的でした。

プロダクトを提示することで、選択肢を増やしたい

ー 石井さんが起業したきっかけや経緯を教えてください。

日本のジェンダーギャップ指数にショックを受けたことをきっかけに起業しました。大学卒業後は、IT企業でSNSやデジタルマーケティングに従事していたのですが、欧米の企業がユーザーとどのようにコミュニケーションを取っているかを日々リサーチしていました。企業がフェミニズムやジェンダーギャップ、ダイバーシティなどについて発信しているのを目にするなかで、ジェンダーギャップ指数を知りました。

私は日本で生まれ育っているので、日本は当たり前に先進国だと思って暮らしていたけれど、ジェンダーという側面から見ると下から数えた方が早かったんです。まさかと思いながら考えてみると、確かに昔から政界は男性が中心だったり、新卒で入った会社の経営陣には男性しかいなかったり。当たり前だと思っていたことが当たり前じゃないことに気づきました。今ではそういったことについて盛んに言われるようになりましたが、当時は、もっとたくさんの人にこの現状を知ってもらわなくてはと、使命感を覚えて。そこでまず、フェミニズムやジェンダーなどについて発信するメディア『BLAST』を立ち上げました。そして女性をエンパワーするということをコンセプトに掲げ、物理的にもプロダクトを通じて女性を応援したいと、フェムテックブランド〈Nagi〉をスタートしました。

〈Nagi〉の吸水ショーツは、フル・スタンダード・スリムと吸収量別で3種類。高い機能性に加え、ゴミが出ない、繰り返し使えるというサスティナブルな点も魅力。履き心地も抜群で、おしゃれなカラーバリエーションとデザインも人気の理由です。新色も登場してより楽しく選べるように。妊活用のシリーズ「sign」も仲間入り。

ー 最近では「フェムテック」という言葉も広まりつつあり、吸水ショーツブランドも急増しましたが、〈Nagi〉が誕生した昨年はまだ新しく話題を集めましたね。フェムテックや吸水ショーツに注目したのはなぜですか?

プロダクトを作ろうと考えたとき、選択肢が少なく、かつポジティブになっていないような事柄に向き合いたいと思ったんです。あと私たちに身近であること。女性の身体や生理のことってまさにその1つですよね。じゃあ、私たちに解決できる身体のことってなんだろう?私たちに作れる生理用品ってなんだろう?と。

欧米では、生理用品やフェムテックのプロダクト、例えば月経ディスクや吸水ショーツ、アプリケーターがないサスティナブルなタンポンなど選択肢がたくさんあります。一方日本では、女性たちに話を聞くと、7割くらいは紙ナプキンを使っていて、タンポンも試したことがないという方も。プロダクトの数が少ないこともあるけれど、前提として自分の身体をよく知ろう、もっと良くしようという意識が低く、またそうできると思っていない方が多くいることを知りました。そこで私たちがまずできることは、プロダクトを提示することで選択肢を増やすことだと考えたんです。その新しい選択肢が、吸水ショーツでした。

自分の身体をコントロールすることは、自分の人生をコントロールすることに繋がる

ー プロダクトを通じて選択肢を増やす先には、どんな想いがありましたか?

〈Nagi〉のプロダクトによって、自分の身体や生理について見直したり、フェムテックに興味関心を持ったりするきっかけになればと思います。また、世の中には選択肢がもっとたくさんあること知ってもらえたらという想いがありました。女性たちが主体的に自分の身体をコントロールすることは、自分の人生をコントロールすることに繋がると思っています。私たちの会社が、そんな選択肢を世の中に提示する存在になれたら理想的だなと。

ー 「自分の身体をコントロールすることは、自分の人生をコントロールすることに繋がる」。確かにそうですね。石井さんがそう感じた体験などはありますか?

生理は、まさにそう。私自身もともと生理がとても重くて、半年に1回は倒れて運ばれるくらいで。ピルを飲むようになったら、そんなこともなくなり量も減り、生活しやすくなりました。結果的に、気持ちも落ち着きました。吸水ショーツももちろん使っていますし、生理に関してはかなりコントロールしている方だと思います。生理の辛さを我慢せず、いろいろな選択肢を使って楽にできれば、例えば仕事や育児、自分と向き合う時間が増えるし、その先の人生に使う時間や向き合い方、マインドも変わると実感したんです。

クリエイティブの力も借りながら、“本当にいいもの”を届けたい

ー 石井さんが、ものづくりをする中でこだわっている点や大切にしていることは、どんなことですか?

ものづくりとビジネスを両立する上で、“いいものを作ること”と“きちんと流通に乗せること”、シンプルにこの2点に尽きると思いました。キャッチーで良いクリエイティブにすることで、手にとってくださる方が増え流通にも乗せやすくなると感じていたので、まずは、本当にいい商品、機能性の高い商品を作るということは、こだわりでもあり大切にしていることでもあります。

ー 具体的に、どんなところにこだわっていますか?

既存のプロダクトよりも良質なものを作るため、優れた吸水速乾の生地や制菌加工された生地など防臭シートを使用しています。ごわつきなどが気にならない薄さで、高い吸水力を実現するため、薄さと吸水力のバランスにはとくにこだわりました。何度も何度も試作を重ね、150名の女性からお話を聞き、100名に実際試してもらってやっと形にできました。また、パッケージにもこだわっていて、包装はプラスチック素材を一切使わず紙素材のみを使用してエコフレンドリーな仕様になっています。

ー プロダクトとしての新しさや機能性はもちろんですが、〈Nagi〉のヴィジュアルもとても話題になりましたね。生理用品に見えないおしゃれなデザインなど、意識したことはありますか?

ブランド名は、「凪(なぎ)」からきているのですが、女性たちが生理期間など不安定になりがちな時期でも、凪のように穏やかに過ごせますようにという願いを込めています。その名前やコンセプトを決めたとき、キーカラーはなんとなくグリーンというのが浮かんだんです。既存の生理用ナプキンは、ピンクだったり、可愛らしくて華美なデザインが多かったりと、ポップで子供っぽい印象を感じていたので、大人っぽく洗練されていて、女性が自然と手に取りたくなるカラーやデザインを目指しました。

ー 実際に、ユーザーからはどんな感想がありましたか?

生理用品っぽくないので、買いやすい。生理が楽しみになった。買って使うのが楽しみといったような声がありました。友人や姉妹間のプレゼントにしてくれる方も多いようで、すごく嬉しいですね。

ー ギフトにもピッタリですね。イメージヴィジュアルでもさまざまな個性のあるモデルを起用されていて、これまでにない印象でした。

今まで、ファッションブランドやランジェリーブランドでは、白人モデルがメインになることが多かったと思います。フェミニズムやメディアについてよく考えるのですが、女性たちにとってメディアやコンテンツから受ける影響はかなり大きいと思います。例えばルッキズムに代表されるような画一的な美しさだったり、ジェンダーバイアスやアンコンシャス・バイアスなどについてもそうですよね。そういう中で生きてきたので、白人至上主義みたいな考えがどうしても染みついてしまっていますが、アジア人の私たちも美しいし、良いもの。身体のサイズだって、人それぞれ。そういうように、〈Nagi〉では多様な美の価値観を伝えていきたいと思っています。

だから、モデルは少なくとも1/3、できれば半分以上はアジア人になるようにキャスティングしています。また身体のサイズもさまざまです。ユーザーからも、細身のモデルだけではないヴィジュアルを見て、自分の身体に自信が持てたというような声もありました。

「女性をエンパワーする」。女性の自立を応援できる企業に

ー クリエイティブの力で、素敵に表現されているなと感じました。コンセプトでもある「女性をエンパワーする」という点については、どんなヴィジョンをお持ちですか?

私たちは、いわゆる“スタートアップ”の経済圏にいるので急成長を求められますが、事業成長と、女性をエンパワーすることの両立は決して無理ではないと思っています。みなさんが求めているプロダクトの最適解を、〈Nagi〉として出して成長させていきたいと。そして事業成長させることで、もっと雇用を生める状態にしたいと強く思っています。フェミニズム的に考えても、女性が経済的に自立することは重要なこと。例えば育児や産休、女性の職場復帰の場面でも、夫婦でフェアに交渉できる状態になっていない。だから、女性たちが自立できるような給料を支払えるよう成長させることは、会社として目指すところでもあります。

ー 〈Nagi〉は、ユーザーとのコミュニケーションを大切にして、商品づくりにいかしているように感じます。

いわゆるD2Cと呼ばれる業態のブランドなので、オンラインできちんとコミュニケーションを取ったり、みなさんの声をキャッチアップできたりすることが、私たちの強みでもあります。だから、商品開発に関しても頻繁に声をキャッチアップして反映するようにしています。

世代を越えて、女性がもっとオープンに語り合える場を

ー 選挙期間に行われていたキャンペーンも興味深かったです。反響はありましたか?

想像以上の反響がありました。若者の投票率が低いということもあったので、投票の後押しになればと実施しました。私たちは、女性たちが何かに気づいて声をあげることで、社会を変えることができると信じているので、女性に特化した政策などをカテゴライズしたり、私たちが注目している争点をまとめたりして、情報のシェアもしました。それがすごくありがたかったという声や、若い世代だけでなく上の世代の方も、投稿を見て久しぶりに選挙に行こうと思ったという声も。

選挙に行くのはもちろん、自分で考えて投票するというきっかけになれたなら嬉しいです。今回、社内でも政治について話しました。各政党の政策についてや、推しの政治家についてなど、政治の話がオープンにできたことは私たちにとってもいい機会でした。

ー 政治や生理など身体の話は、なかなかオープンに話す機会が少ないのが現状ですが、プロダクトを通じて物事を考えるきっかけづくりになっていますね。

いつも通っている整体の先生が、40代半ばの女性なのですが、「私たちの年齢になると閉経ももうすぐだと思うから、毎月ナプキンを買うかどうか迷う。そんなとき〈Nagi〉はちょうどいいんだよ」と話してくださって。私自身も、〈Nagi〉を通じて幅広い世代の女性から、生理や尿もれ、閉経など身体の変化や悩みについて話す機会が増えて、とてもありがたいと思っています。

ーこれから新しいプロダクトができる予定はありますか?

ユーザーや社員の声を聞きながら、今年妊活している方向けのショーツも発売しました。生理の始まりと終わりがわかりやすいよう、内側を黒ではなくグレーにしています。これからは、独自の高い吸水力をいかして、世代別のラインを立ち上げる予定です。ユーザーからの声を取り入れながら、年齢とともに変化する女性の悩みにもっと寄り添えるブランドになっていきたいと考えています。例えば、妊娠中や高齢の方だけでなく悩んでいる方が多い尿もれに対応できるショーツだったり、母から娘へプレゼントいただいているケースも多いので、小中学生用のデザインや素材にしたり。

またユーザーから要望が多い、ショーツ等に限らない商品開発にも着手しています。例えば、環境にもやさしい経血専用洗剤やデリケートゾーンケア商品など、生理のみならず女性のライフスタイルを支える周辺商材も展開予定です。

ー これから新しいラインナップが増えるのが楽しみです。後半では、石井さんのライフスタイルやスキンケア、ドゥーオーガニックの印象に残った製品などについて伺います。

photos by yoshimi
   edit&text by Hitomi Takano

石井リナさん

石井リナさん
(いしい・りな)
2018年に起業し、BLAST Inc.を創業。エンパワーメントメディア『BLAST』とフェムテックブランド〈Nagi〉を立ち上げ、運営を行う。2019年に日本を代表するビジョンや才能を持った30歳未満の30人を表彰する「Forbes 30 Under 30」インフルエンサー部門を受賞。
https://nagi-jp.com/